今回は肩関節疾患のリハビリで絶対に押さえておきたい筋肉である、棘上筋(きょくじょうきん)について、臨床で即使える知識をまとめました。
棘上筋とは?
棘上筋は、肩関節の安定化に重要な役割を担う**ローテーターカフ(回旋筋腱板)の一つです。
特に、肩の外転初動(0〜15°程度)を担うことで知られています。

- 起始:肩甲骨の棘上窩(きょくじょうか)
- 停止:上腕骨の大結節(だいけっせつ)の上部
- 神経支配:肩甲上神経(C5・C6)
棘上筋の主な作用
- 肩関節の外転(0〜15°)
- 肩関節の安定化(特に動作時に上腕骨頭が求心位を保つ)
これにより、日常生活動作(ADL)に欠かせない「腕を持ち上げる」「物を取る」といった基本動作を支えています。
臨床で押さえたい!棘上筋に関するポイント
触診のコツ
- 反対の手で肩を覆い、肩甲棘のすぐ上方(棘上窩)を指を並べて触れます。
- 下方に伸ばした腕を、小さく(約20°~30°の間で)内外転を繰り返すと、棘上筋の収縮を触れることができます。
- 収縮は、棘上窩の最も内側から、外側は肩峰下に入る直前まで触れることができます。
触診時は、大きく内外転を行うと、表層にある僧帽筋が収縮し、棘上筋の収縮を鑑別することができません。
臨床での障害例
- 腱板断裂(Rotator Cuff Tear)
→ 特に中高年に多く、棘上筋腱が摩耗・断裂します。 - 肩インピンジメント症候群
→ 肩峰下で棘上筋が挟まれ、炎症や疼痛を引き起こします。 - 肩関節周囲炎(五十肩)
→ 二次的に棘上筋の柔軟性・筋力低下が進行することも。
評価方法
- エンプティカンテスト(Empty Can Test)
→ 肩関節を90°外転位・30°水平内転位にし、内旋(親指を下向き)させた状態で抵抗をかけ、痛みや筋力低下をチェック。
棘上筋のみを評価したいため、可能な限り他の筋の活動は関与させたくないですよね。
棘上筋のように、肩甲上腕関節を安定させる(支点形成)筋に、上腕二頭筋長頭があります。
上腕二頭筋長頭は、外旋位にて安定化機構が働き、内旋位にて弱まります。
そのため、棘上筋の機能評価のためには、親指を下にして肩関節内旋位でテストする必要があります。
棘上筋断裂のMRI画像
棘上筋断裂をMRIで診断するとき、押さえるべきポイントはこちら!
【MRIにおける棘上筋断裂の特徴】
🔵 T2強調画像で高信号
→ 腱が断裂している部分に、液体成分(高信号)が溜まる。
🔵 腱の連続性断裂
→ 棘上筋腱が「ブツッ」と途切れたように見える。
🔵 筋萎縮・脂肪変性
→ 慢性断裂では、棘上筋の筋腹がやせ細ったり、脂肪に置き換わる(これもMRIで確認できる)。
【代表的なMRI画像イメージ】
- 正常棘上筋:白く連続した腱線維
- 部分断裂:部分的に線維が切れている(まだ連続性あり)
- 完全断裂:腱線維が完全に断たれ、間に液体が貯留
※可能であればMRI断面(冠状断・矢状断)も見ると診断精度UP!
自主トレメニュー
タオルスクイーズ外転(等尺性トレーニング)
やり方
- 脇にタオルを挟み、肘を軽く曲げたまま体側に押しつける。
- タオルを「ぎゅっ」とつぶすように力を入れる。
- 5秒キープして、ゆっくり力を抜く。
回数・セット
10回 × 2〜3セット
ポイント
- 肩をすくめないよう注意!
- 痛みが出る場合は中止。
セラバンド外転トレーニング(15〜30°)
やり方
- セラバンドを固定し、体の横に持つ。
- 腕を15〜30度ほど外転させる。(親指を天井に向けるイメージ)
- ゆっくり元の位置へ戻す。
回数・セット
8〜12回 × 3セット
ポイント
- 肩甲骨を安定させたまま行う。
- 動作は「スロー&コントロール」で。
軽ダンベル外転(肩に優しい筋トレ)
やり方
- 500mlペットボトルなどを手に持つ。
- 肘を軽く曲げながら、腕を体側から30°くらいまで外転。
- ゆっくり戻す。
回数・セット
8〜12回 × 2〜3セット
ポイント
- 荷重は軽めに(無理に重たくしない)。
- 途中で痛みが出たら即中止!
スカーリング(肩インナーマッスル強化)
やり方
- 腕を前に伸ばし、脇を軽く締める。
- 手のひらで「大きな8の字」を描く。
回数・セット
10回 × 3セット
ポイント
- 動きは小さくてもOK。正確に!
まとめ
棘上筋は、肩関節機能の維持・改善において極めて重要な筋肉です。
特に、肩関節痛を訴える患者さんに対しては、必ずこの筋の状態(柔軟性・筋力・炎症の有無)をチェックする必要があります。
臨床で「肩が上がりにくい」「肩に力が入らない」とき、まず棘上筋を疑え!
しっかり理解して、日々のリハビリに役立てていきましょう!
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